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社長コラム

工藤さん

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ぼくのたからもの

2019年7月号

 「大切なものは、目には見えないんだよ。心でさがさないとね。」
ぼくはこれまでの50年ほど、心の中にいつも、王子さまのこのささやき声を聞きながら生きてきた。

    二十歳のとき、部活の仲間の女性から、童話の本をもらった。タイトルに「Le Petit Prince」とあった。著者は、サンテグジュペリという、聞いたことのないフランス人だった。日本語版は、「星の王子さま」となっており、よくもまー、Petit Prince を星の王子などと訳したものだと、感心したものだった。フランスの童話なので、どうしても耳で聞きたくて、偶然出会った、子連れのフランス人女性にお願いして、日を改めて朗読してもらった。鼻にかかった甘くやさしい響きに、ぼくの心は震えた。

    そのときはまさか、この王子さまと一生、心の友だちになるなどとは、夢にも思わなかった。今でもその響きは、心の中に生きている。

    はてさて、透き通った王子さまの世界を、心の基軸にした僕は、いったい、これまで何をどう生きてきた のだろう。

    僕は、世界の平和を願い、日本がその中で、日本らしい貢献をできることを願い、僕なりに五〇余年、一所懸命頑張ってきた。経済万能の時代だったが、人間にとって大切な「やさしさ」は、しょせん、経済世界の中では立ち枯れてしまうだけだ…文化を育む世界の中にこそ救いがあると思い、鉄鋼業という典型的な経済の世界から、目を瞑って文化の世界に飛び降りた。25年前だった。そして僕なりに、日本の伝統文化にこだわって、NMNのメンバー諸氏と必死に勉強した。そして僕なりの一大発見をした。

◆日本民族の生きざまの奥底には、「多様性への寛容」と「共生のリズム」が脈々と流れており、日本民族は、「やさしい心根」の持ち主であり続けてきていること。

◆そしてこれこそは、数千年にわたって、虚しい対立と抗争に明け暮れてきた世界に欠落しているものであり、日本人や日本社会は、このやさしい心根を柱に、世界に向かって的確なメッセージを発信していくべきであること。

◆日本社会は、文化の香りのない経済万能主義から、一刻も早く脱皮して、この日本人のたからものを現実化していかなければならないこと。

    これが工藤という男の生きていく証であったはずだったのだ。あれから月日が経ち、僕は後期高齢者になってしまったが、一体これまでの必死さはどう開花したのだろうか。

    世界は相変わらず、エゴに終始し、対立と抗争に明け暮れて、剥き出しの暴力が、傍若無人を押し通してきた。そこには、人間のやさしさなど、歯牙にもかけられない現実がある。

    日本社会もまた、突出する経済の論理に振り回されて、「強者に弱者、勝ちと負け、儲けと貧乏」の格差社会、孤立社会になってしまい、互いに関わり合うことを煩わしいと思い、人びとの心は荒び、社会は急速に劣化してしまった。僕は、こんな社会を得るために、必死に生きてきたわけか、いったいどこでどう間違ってしまったのか?と自問していると、突然王子さまとキツネの会話が聞こえてきた! …王子さまにキツネが言います。「あんたがバラの花をとても大切に思ってるのはね、そのバラのために、ひまつぶししたからだよ」、「人間っていうものは、大切なことを忘れてるんだよ。…めんどうみたあいてには、いつまでも責任があるんだ。まもらなけりゃならないんだよ。バラの花との約束をね」と。

    日本の現状を嘆くもよい、世界を批判するのもよい、しかしそれは不毛でしかない。深刻さは実は、外部なんかにあるのではなく、ぼく自身の心のなかに巣食ってきていたのだ。僕はいったい、その時々に大切だった人びとに、自分のできる精一杯に、責任を果たし尽くせたか?!中途で適当に逃げを決め込んだのではなかったか?本当は、やさしさなどお題目だけで、力と勝ちと儲けに向かって必死だっただけではないのか?この自問には、ただただ頭を垂れて猛省するしかない。そう、王子さまと出会って五十年も経ってはじめて、自分には、やさしさのかけらもなかったことに気づいてしまった。

    さてどうする?今からではもう遅すぎるのか? そうかもしれない、しかし…。サンテグジュペリが、透き通った心、やさしい心の大切さに気づいたのは、飛行機が砂漠に墜落し、死に直面した時だった。 「死」に確実に近づいている僕も、遅まきながら、「死」を見つめる中で、透き通った心、やさしい心を取り戻したいと、神様に祈る次第です。

    少しずつでもわずかでもいい、今日から、心の中にやさしさを積み重ねたい!

【工藤】

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